2015-01-01から1年間の記事一覧

030.見えない絆

ミユコは目を覚ます。ベッドから起きあがって周りを見ても、誰もいなかった。 ふと、恋人のユウトがいないことに不審がるも、すぐに昨日のことを思い出す。 「あ、そっか。ミュートにしたんだっけ」 少しさみしい気分になったが、それでもまだ昨日の怒りが濃…

029.母の手のひら

度重なる環境汚染によって引き起こされた異常気象、生態系の崩壊、内乱や暴動により、人類は多くの命を失った。 また生き残った者たちも、過酷な環境の中では以前のような快適な暮らしはできなかった。 少ない食料を分け合い、そして時には奪い合い、未来と…

028.少女は変態

「大人になんかなりたくないわ」 丸みを帯びながらも、どことなく大人っぽさを漂わせた少女がそう呟いた。 「だって、大人になるって、醜くなることでしょ?」 はぁ、と憂鬱そうに溜息を吐く少女のそばには、少女と同じくらいの年齢の男の子がいた。 「そう…

027.桜の木の下殺人事件

桜の木の下には死体が埋まっているという噺がある。その噺の出所は、梶井基二郎の短編小説、「櫻の木の下には」であると言われている。だから桜の木の下には死体なんて埋まってなくて、綺麗な桜には養分を多く含んだ土と水と、丁度良い温度が必要なのだ。 「…

026.英雄論

科学技術が進歩した現在でも、人々は求め続けている。 何を求めているのか。それは、英雄だ。圧倒的な力を持ち、人々を助け導く存在だ。 どんなに生活が便利で豊かになったとしても、人々は英雄を求めて止まないのだ。 英雄が出現しない限り、人々の飢えは満…

025.群体人間

最近仕事でヘマをしてばかりだったからかもしれない。それか夜中にアニメDVDを観すぎているせいかもしれない。つまりストレスか、身体の疲れか、とにかくそのどちらかもしくは両方が原因だと思う。 でなけりゃ、俺の左半分が勝手に動くなんてことの、説明…

024.母なる大地

ついに私はこの世界で一番高性能なコンピューターを開発することに成功した。膨大な知識領域とそれを瞬時に処理できる能力。 だが世界の役に立つものには、高性能なことよりも高潔でなければならない。私は高潔なAIを作ることに多大な時間と労力をを費やし…

023.世界平和は笑う

人が行き交う街中で、一人の老人が倒れた。みすぼらしい恰好の、見るからに貧しい老人であった。 心が冷たい人たちがいる街であったなら、この老人は放置され、そのまま野たれ死ぬであろう。 しかしこの街はそうではない。人々はお互いを思いやり、笑いあい…

022.名探偵は食べる

人は禁忌を犯すとき、何を考えるだろうか。 絶望? 希望? 怒り? 悲しみ? 喜び? どれでもなかった。少なくとも私には、何もなかったのだ。人を一人殺したとしても、心は全く揺さぶられなかった。ただ終わったのだ。目の前で、私の人生をめちゃくちゃにし…

021.完全犯罪アパート

この世の快楽という快楽を、全て味わい尽した。 俺は先祖代々続く財閥の子であり、そしてその跡取りだ。血筋なのか、仕事も上手くいっている。元々金は腐るほどあり、さらには仕事で次から次へと入ってくる。 正直退屈だった。こんなにも人生上手くいくなん…

020.MOMIGE

紅葉狩りの季節だ。 MONSTER MILLION GENE、通称紅葉(MOMIGE)、秋の京都に突如として出現した、謎の生命体たちだ。 全身が赤い個体と黄色い個体がおり、そいつらの主食は人間だ。なぜそいつらが秋の京都に出現し、そして秋の京都でしか生きられないのは分…

019.呪われた文字

隔離されていったいどれだけの時間が流れたのか。分からない。このシェルターには時計どころか窓すら付いてない、時間間隔はとっくの昔に狂わされている。 気の良いアルバ、人見知りのヴィタ、可愛らしいガマ、みんな生きているだろうか。もし生きていたとし…

018.快適

「中は快適だよ」 365日、24時間、永久的に快適がプレゼントしてくれる快適環境保持システムが各家庭に導入されてからもう30年以上も経つらしい。僕たちは家に出る必要はほとんどなく、椅子に座りながら必要最低限の栄養を与えられ、また必要最低限の運動を…

017.SIG48

正義とは何ぞや。 ワシは殴られながら考える。 正義とは何ぞや。 「オラッ! どうやボケッ! 死んだか! 死んだんかドアホッ!」 と地面に倒れ伏せているワシの脇腹を執拗に蹴り続けるのは正義の味方、仮面戦隊レッド。血のレッド。 「フハハハハ! この程度…

016.バタフライおっぱいエフェクト

おっぱい、それは柔らかくて素敵なもの。おっぱい、それは美しくて素敵なもの。 全ての人間が、生まれて初めて与えられる飲み物、それを作り出す神の器、おっぱい。 だが……だがなぜ……! おっぱいは成長を重ねるほど遠ざかっていくのだ! おっぱい触りたい! …

015.望世界

ぼくたちは進化した。 あらゆる壁を乗り越えられる力を、あらゆる穴をよじ登れる力を、あらゆる海を泳ぐことができる力を、あらゆる空を飛ぶことができる力を、ぼくたちは手に入れた。 望めば何もかも手に入る力。何かを考えるだけでそれが実現する力。その…

014.あなたの中に罠があります。

あなたの中に罠があります。 たとえば、朝、あなたが朝の陽ざしの眩しさに目を覚まして、ゆっくりとその重たい瞼を開けるとき。 あなたの中に罠があります。 たとえば、夜、あなたが気怠く甘い疲れに優しくも重くのしかかられ、意識が、ふっと、暗闇の中に消…

013.死神の誕生日

消灯後の病室、その暗闇の中にそいつは浮かび上がった。 「どうもこんばんは」 と、まるで友人の家を訪ねたかのように、そいつは普通に挨拶をしてきた。 まず消灯後の病室に訪ねてくるという時点でおかしいことだが、それよりもおかしいのが、訪ねてきたそい…

012.スキマビジネス

技術の進歩というのは、人が考えているよりも早く、そして凄いらしい。 ほんの十年前までは、脳をネットワークに繋ぐなんてことはSFアニメの世界だったらしい。だが今ではそれがもう一般化していて、もはや日常生活には欠かせないものとなっている。老若男…

011.あなたの信じる死神

俺の最後の記憶は、食パン咥えて走ってきた女の子と道の角でぶつかり、道路へと突き飛ばされて、そこに大型トラックが迫ってくる、という光景だ。 そして今、俺の目の前には俺自身がいる。いや、いるというよりもあるって感じだ。なぜなら目の前の俺は、首や…

010.トラモンクエスト

勇者、それは世界を支配しようとする魔物の王、魔虎王を倒す存在である。そしてラトは代々勇者の家系であった。つまり父親も勇者であった。 しかし父親は魔虎王を倒すも、命を失ったという。魔物の総本山である魔虎城へ向かう前に、父親はラトを身籠っていた…

009.禁じられた遊び

長きに渡り辛抱強く捜査を続けた甲斐あって、連続殺人犯を捕まえることができた。 だが問題は男の殺人方法と、動機だ。 「だから、殺しの動機なんてないんですよぉ刑事さん」 線の細い、見るからに気弱で頼りなさそうな中年の男、名前は江川井。それが殺人鬼…

008.日光プロのパクリ

世界はいつだって突然に変わる。予兆も予言もない。それは一瞬で、何の原因もいらない。何の結果もいらない。あるのは変化だけだ。 あるアニメを観たものが言った。 「これは日光プロのパクリだ」と。 あるマンガを読んだものが言った。 「これは日光プロの…

007.絶対人形少女

一人の少女の話をしよう。 誰も知らない、孤独で永遠のものとなった彼女のことを。 彼女の名前はロザミリオン・リアス、俺は彼女のことをロザミーと呼んでいた。 「わたし、あなたの人形になろうと思うの」 突然俺の部屋に入ってくるなり、ロザミーは口元に…

006.バージョンアップ

エデンの園にてアダムとイブが食したとされる禁断の果実、それは林檎であったと言われているが、実は林檎ではなくバナナであったという説があるのは、あまり知られていない。 とにかく女はバナナを食した。いや、バナナによく似た果実を食した。黄色く、所々…

005.ガールズショック

私の一番美味しい部位は足。太ももは脂も乗っていて、肉も柔らかい。ふくらはぎはさっぱりしていてヘルシー。足首からくるぶしそして甲から指先のところは、肉は固いけれど、じっくり煮込めば独特の出汁が出るから冬場の鍋にぴったり。らしい。らしいという…

004.ご飯ガチ勢

美味しいご飯大好き! ってそれは当然皆そうだ。誰だって不味いご飯は嫌いだし、美味いご飯は好きだ。美味いご飯を食えば幸せになるし、満足だってするだろう。そして感謝する。何に? 美味いものを作った者にか? じゃあ作った者ってのは誰だ? そう、神だ…

003.つぶやきメトリー

難事件を不思議な力で解決する捜査官とか、悪霊を退治する霊媒師とか、未来を見通す予言者とか、一般的に言われている超能力者のイメージってこんなものだと思う。 だけどもっと身近で日常的な超能力者の在り方っていうのも、ありだと思うんだよね。 そう、…

002.個人情報保護法

俺は目を覚ます。 いつもと同じ、ボロボロの安アパートの、物はほとんど置かれていない一室の、かび臭い布団の上で。 カーテンすらないから、窓から差し込む鋭い朝日が容赦なく目を痛めつけてきて、思わず手で顔を覆う。これも毎日同じようにやっている。 な…

001.生まれ変わりはありまぁす!

私の師匠、生物学者のトレンド博士は偉大な人物である。 約二十年前生物学界に彗星のように現れ、物議をかもすような論文を次々と発表し、そしてその正しさを証明していった。 博士がいなければ、今の生物学界は存在していなかったと言っても過言ではない。 …