020.MOMIGE

 紅葉狩りの季節だ。
 MONSTER MILLION GENE、通称紅葉(MOMIGE)、秋の京都に突如として出現した、謎の生命体たちだ。
 全身が赤い個体と黄色い個体がおり、そいつらの主食は人間だ。なぜそいつらが秋の京都に出現し、そして秋の京都でしか生きられないのは分からない。
 しかし紅葉をこのまま放っておくわけにはいかない。俺たち紅葉ハンターは今年の秋も紅葉を狩っていく。
「しかし、なんだってこいつらは人を喰うんだ」
 五体目の紅葉を狩ったとき、チームメイトのヤマグチがぼやく。
「京都には人よりも美味いもんがゴロゴロあんだろうが」
「例えば?」
「そうだな、生八つ橋とか、京野菜とか色々……な?」
「な? って言われても知らねえよ。俺、京都詳しくねーもん。今ここが京都のなんていう所なのかも分かんねえし」
 京都ってのは、複雑な気がする。古い建物とか道とかが絡み合って、まるで迷宮、のようなイメージがあるのだ。俺は京都が恐ろしい。
 そんな京都に紅葉なんていう化け物まで現れたのだ。俺にとってはもう京都は魔境だ。
「しっかしよぉ、紅葉の奴ら、妙に京都を敬ってるっていうか、崇拝してるっていうか、そんな気がしないか?」
 頭の悪いヤマグチでも気付けるくらい、確かに紅葉たちは京都を大事にしている印象がある。
 大事にしている、という言葉も化け物に対して使うのは変な気がするが、紅葉たちはむしろ、京都を守っているように思える節があるのだ。
 まるで、聖域に踏み込む侵略者たちを排除しているような。
 巡回区域を回っていると、道の向こうから一人の舞妓がやってくる。
「ヤマグチ、舞妓が来た。気を付けろ」
「おうよ」
 俺とヤマグチは対京都ライフルを構えて、やってくる舞妓に警戒する。
「そないなもん向けんとくれやす」
 白粉を塗った、典型的な舞妓が、俺達の横を音も無く通り過ぎていく。
 舞妓、紅葉たちと共存する唯一の民族。
「ったく、気味が悪いぜ、ここは」
 舞妓とは一応、友好関係にはあるらしいのだが、風の噂で紅葉ハンターが舞妓に殺されたというのを聞いたことがある。
「噂によりと昔は、紅葉、舞妓以外にも秋の京都にはSYU=GAKURYOKOUとかいう奴らがウジャウジャいたらしいぜ」
 京都の歴史と情報は、紅葉の出現により、封印されてしまっている。ヤマグチの噂も信用ならない。

 紅葉研究者達の研究により、どうやら紅葉たちはある一ヶ所を守っているとのことだ。
 俺とヤマグチは、何十体という紅葉たちを殺しながら、なんとかその一ヶ所にたどり着く。
 そこには、紅葉があった。
 化け物のMOMIGEじゃない、本物の、紅葉だ。
 空一杯に広がる血のように赤い紅葉。
「紅葉、いやMOMIGEたちはこれを守っていたのか……」
 百万枚はある、紅葉の葉っぱ。
「美しい……」
 そこには、百万枚の紅葉があった。
「アカシャの葉……」一体のMOMIGEが呟いた。