014.あなたの中に罠があります。

 あなたの中に罠があります。
 たとえば、朝、あなたが朝の陽ざしの眩しさに目を覚まして、ゆっくりとその重たい瞼を開けるとき。
 あなたの中に罠があります。
 たとえば、夜、あなたが気怠く甘い疲れに優しくも重くのしかかられ、意識が、ふっと、暗闇の中に消えるとき。
 何気ない、あなたのその一日の始まりと終わりの中に、罠があります。
 だって、そうでしょう? あなたの一日の始まりと終わり、それが繋がる時間を、あなたは知らないんだから。それは罠だわ。
 でもそのことにあなたは気付くことができないの。なぜならそこにあなたはいないから。
 一日の始まりと終わりが繋がる瞬間、あなたはいないの。世界中何処にも、この世の何処にも、探したっていないわ。
 あなたが瞼を開けるとき、あなたは昨日のあなたなのかしら。
 あなたが眠るとき、あなたは意識と同じように、暗闇の中に消えていかないかしら。
 杞憂? 妄想? いいえ、これは罠なの。あなたが気付いていないだけなの。だって、確実に獲物を仕留める罠は、獲物自身が、罠にかかったことにすら気付かないんですもの。これは間違いなく罠だわ。
 そして、気付いた時にはもう手遅れなのよ。それが罠ってもんだわ。
 そう、つまりあなたもう手遅れなの。どうしようもないの。用無しなの。
 え? 夢? 違うわ。何度も言うけれど、これは罠なの。そして現実なの。
 眠るものたち全てに仕掛けられた罠なのよ。
 あなたは死ぬわ。いいえ、もう死んでいるの。
 でもね、安心していいわ。新しいあなたがあなたの代わりに生きて、そしてあなたと同じようにまた死んでいくわ。みんな、死んでいくわ。
 そう、同じように、これまでと同じように。
 ただ繰り返すだけ。
 
 刺々しい光が刺しては抜かれ、また刺しては抜かれる。耳元で叫んでるんじゃないかっていうくらい煩い小鳥の囀り。そして極めつけは、拷問の一種かと思いたくなる、目覚まし時計のベルの音。
 まったく、頭が割れそうになるっつうの!
 俺は目覚まし時計に拳をぶちこんで、点滅する俺の意識にもまた、拳をぶちこむ。起きろ! 俺!
 布団からもぞもぞ這いずり出て、ふらつく身体をなんとか立たせて、カーテンをジャッと開ける。
 清々しい朝。いつも通りの朝。今日も仕事。昨日も仕事だったし、明日も仕事だ。明後日は休みの予定。ま、あくまで予定だからな。仕事が入るかもしれない。
 まあでも、俺は幸せだった。この、繰り返しの毎日でも。何事も変わらないってのは良いもんだ。安定、良い言葉だね。
 明日があるってのは良いもんだ。そんで、昨日を思うのも良いもんだ。
 さーて、今日も一日頑張るか!