017.SIG48

 正義とは何ぞや。
 ワシは殴られながら考える。
 正義とは何ぞや。
「オラッ! どうやボケッ! 死んだか! 死んだんかドアホッ!」
 と地面に倒れ伏せているワシの脇腹を執拗に蹴り続けるのは正義の味方、仮面戦隊レッド。血のレッド。
「フハハハハ! この程度でワシを倒したと思うとるのなら、お主もまだまだよのう!」と砂を噛みながら高笑いをするワシは、悪の組織、ワルビレンの首領、ワルチョイ。ちなみに組織のメンバーはワシだけ。でも正義の味方である仮面戦隊にはレッドの他にあと47人ものメンバーがいる。
 何やら「正義の味方を売り出すにも新しいやり方が必要」とかで、新メンバーがどんどん増えていっているのだ。確かに、新メンバーたくさんいたほうが、仮面戦隊のグッズも売れるだろうし、そりゃあ間違っとらんだろう。
 しかし、しかしだな、こうして悪の組織に入って50年目の大ベテランを、こうも痛めつけるのは、間違ってはおらんかのう?
「ヘイレッド、そんな糞じじい放っとけよ。どうせもう長くねえんだからよぉー」とレッドの暴力並にキッツイ言葉を吐きつけるのはブルー。
「もうすぐ新しいメンバーの面接すんだから、適当なところで切り上げろよ」
「おうブルー、分かってるけどよ、分かってるけど俺は! 悪が! 許せねえんだ!」
 と、言葉に合わせて蹴りを入れてくる。
 ワシはもう一度問いたい。
 正義とは何ぞや!
「ったく、さっさと死ねやカスが」これまた鋭い台詞。
 去っていくレッドとブルーを霞む目で見送り、ワシは震える身体を立ち上がらせる。
 悪とはなんだろう。ワシは、何も悪いことをしているつもりはないのじゃ。ただ、今の日本を変えようと頑張っているだけなのに……。
 それを奴らは悪だと言うのだ。今の日本が完全なる正義であり、それに正義を執行するよう命ぜられた仮面戦隊たちは正義の味方というのが、奴らの理屈である。
 酷い話だ……。
 今の日本は、違った価値観、正義感を認めず、悪とみなす。悪とみなされたものは徹底的に叩き潰されるのだ。
 ああ! どうかワシを! ワシを助けてくだされ! ヒーローよ! って、ヒーローは、あの仮面戦隊たちじゃった。
 弱い者は、死んでいくしかないのだろうか。強い者に従わなければならないのだろうか。
 ワシは、弱い者も強い者も平等に暮らせる真の平和な世界を作りたいだけなのに……。
 もう一度問いたい。
 正義とは、何ぞや。