016.バタフライおっぱいエフェクト

 おっぱい、それは柔らかくて素敵なもの。おっぱい、それは美しくて素敵なもの。
 全ての人間が、生まれて初めて与えられる飲み物、それを作り出す神の器、おっぱい。
 だが……だがなぜ……! おっぱいは成長を重ねるほど遠ざかっていくのだ! おっぱい触りたい! おっぱい揉み揉みしたい! ああああああ! おっぱいisForever!
 乳離れとは言い得て妙だ。乳幼児が離乳食を食べ始めることを乳離れと言うのかと思っていたが、男たちが成長していくごとに、おっぱいと触れ合える時が減っていくことも指しているとは……。
 と言うと、読者諸君は「おっぱいと触れ合えないとか童貞乙!」と俺をなじるだろうが、そんなことは知ったことではない。いやむしろ知りたい! なぜ俺だけが、この俺だけが未だにおっぱいを触れずにいるのか! 誰か教えてくれ!
「この前ヤった女が巨乳でさー、マジやべえんだよー」と言うチャラ男! 貴様はおっぱいの有難みを分かっちゃいない! 死ね!
 と思っていたら、ある日突然俺におっぱいが舞い降りる。
 いや、決して巨乳の美少女の彼女ができたとかそんなんじゃないから安心してくれ。
 いや、やっぱり安心しないほうがいいかもしれない。巨乳で美少女で黒髪ロングの眼鏡娘の彼女が俺にできたほうが、まだ安心できたかもしれない。
 おっぱいだけが、俺の元にやってきたのだ。しかもかなりの巨乳。EかF、それぐらいある。
「なんだこいつは……」と、朝起きた俺の枕元に置かれていた白い肌の巨乳を見て、俺は思わず呟く。
 なんだも何も、それは間違いなくおっぱいだ。触らなくても分かる。プニプニ柔らかいおっぱいだ。
「どうしておっぱいだけがここに……」とまた俺が呟くと、おっぱいはぷるるんぷるん揺れる。
「俺の言葉が、分かるのか……?」
 ぷるん。
 これは凄い!
 それから俺は突然やってきたおっぱいとコミュニケーションをとるため、合図を決める。
「いいか、おっぱい。YESだったら一回ぷるん、NOだったら二回ぷるんだ」
 ぷるん。YESだ。
「お前は、おっぱいと触れ合いた過ぎて生み出してしまった俺の、幻覚なのか?」
ぷるん、ぷるん。NO。
「じゃあお前は一体何なんだ?」
 沈黙。そうか、YESかNOかで答えられる質問じゃなければ、コミュニケーションできない。
「おっぱい、なのか?」
 ぷるん。YES。そりゃそうだろう。
 なんにせよ、俺が夢にまで見たおっぱいだ。
「なあおっぱい……その、触っても、いいか?」
 ぷっるん。YES! 俺はがばっと飛びついて、おっぱいを揉みしだく!
「や、ややや、やーらけぇえええええええ!」マシュマロ? プリン? 何これ!? おっぱいだよ! おっぱいでしかないよ! おっぱいこそ人類を平和へ導くものだよ!
 そうして、俺とおっぱいの不思議な共同生活が始まった。
 色々と不便なことはあった。おっぱいのご飯をどうするかとか、お風呂はともかく、トイレはどうするのかとか。
 でもおっぱいは見かけによらずしっかりした奴で、自分のことは自分でしようというところがあった。
 引きこもり気味だった俺は、バイトも始めて、初めて貰ったバイト代で、おっぱいにブラジャーをプレゼントしてやった。
 ぷるるんっぷっるるんるん。おっぱいはかなり喜んでいた。
 そうして数か月経った時、俺はおっぱいと気分転換に近所の公園へ散歩することにした。
 散歩、と言えるのかは微妙だった。おっぱいを人に見られないように、リュックサックにおっぱいを詰め込んで、俺がそれを背負って歩く、というものだ。
 それでもおっぱいは楽しそうだった。
 ぷるんぷるん!
「おいおい、嬉しいのは分かるけど、少し大人しくしてくれよ」
 ぷるん!!!
 突然、おっぱいがこれまでにないくらい、激しくそして力強く揺れた。
「お、おい!」
 おっぱいはリュックサックから飛び出して、スーパーボールのように弾んでいく。
「待ておっぱい! どこへ行くんだ!」
 俺は追うが、おっぱいは速い。追いつけない。
「おっぱああああああああああああい!」
 弾んで俺から離れていくおっぱいの姿が、徐々に透けていく。消えていく。
「おっぱい待ってくれ! このままお別れなのか! そんな! あんまりだ! おっぱい好きだ! 大好きだ!」
 だがおっぱいは消えてしまった。俺はその場で崩れ落ち、ぐしゃぐしゃに泣き喚いた。
「ちょっとあんた、何泣いてるのよ。大の大人がみっともないわよ」
 顔を上げると、貧乳の女の子が立っていた。
 
「それじゃあ、おっぱいのみ転送するタイムマシーン起動するよ」
「ええ、お願いあなた」
「しかし、あのとき愛したおっぱいが、まさかお前のおっぱいだったとはな」
「ふふふ、おっぱいって、不思議なものね」
「ああ」
 妻のおっぱいが過去に転送されていく。